究極UPandDOWN
想像書架
もう俺、想像書架に永住するよ。
落下してきたシャンデリアを、間一髪で回避した。
不思議なことに、飛び散ったガラス片は、サラサラと消えてしまった。
「変なの」
何度となく書架へ通い、だいぶ司書さんと話すようになった頃からだろうか。
司書さんが所用でいなくなった時に限って、何かが落ちてきたり、何かが襲ってきたりするようになった。
この書架は司書さんそのものだと本人から聞いたことがあるけれど、こうやって襲ってくるのも司書さんの意思によるものなんだろうか?
それにしては、司書さんは人当たりのいい、穏やかな性格をしている。
とてもそんな残虐性を持ち合わせているようには見えないけれど・・・。
こつり
何かが靴先に当たった。
弾かれてころころと転がったそれは、パッと見、毛玉のように見えた。
瞬間、
“イた イ ヨ”
耳元で、壊れたテープレコーダーのような声が聞こえた。
瞬時に危険と判断し、すぐに回避行動に移る。
着いたのは、見慣れたフロア。
あぁ、戻ってきたんだ。
そろそろと奥の掲示板に近付き、貼り出されたポスターを眺める。
最後に見たものと、違うようだ。
前は確か、木彫り人形と銅製人形のピアノコンサートだったような気がする。
今度は、シアン・フィトンリールのチャリティーコンサートか・・・一体、どれくらいの期間、書架の奥にいたんだろう。
「あぁ、よかった」
先程耳元で聞こえた声とは違う、安堵の声が背後から聞こえた。
懐かしい声に振り返ると、やはり懐かしい姿があった。
古い眼鏡を掛けて、優しく微笑む姿は、以前見た姿と変わらない。
ただ、その表情は、少し困っているようにも見える。
「君、捜しましたよ。随分と書架の奥まで行ってしまったのですね。君の気配は断続的にしか感じることができなかったので、非常に冷や冷やさせられました」
司書さんが、するするとコードと共に近付いてきた。
コード内には光が流れていて、今日も綺麗だ。
「あぁ、でも、本当によかった。君が無事で」
胸に手を当てて、心の底から安心したように、司書さんが息を吐く。
そうか、司書さんは心配していたのか。それは、悪いことをした。
「ごめんなさい」
「いいえ、君が謝ることではありませんよ。でも、そうですね・・・今度からは、僕がいない時は、あまり奥の方へは行かないようにしてくださいね」
「司書さんが一緒だったら、いいですか?」
私がそう聞くと、司書さんは驚いた顔をした。
ここの書架を探索するのは好きだ。
色んなものがたくさんあって、見たり聞いたり触ったり話をしたり、すごく楽しい。
だから、探索範囲が狭くなるのはちょっと残念な気持ちになる。
司書さんに心配させたくないけれど、それでも探索したい、それならどうするか、で出した折衷案なんだけれど。
「・・・えぇ、いいですよ。あまりおすすめできない場所へはつれては行けませんが、それ以外の場所であれば、どこへでもお供しましょう」
司書さんが、困ったように笑った。
でも、その顔が嬉しそうにも見えて、自分勝手な解釈だなぁと思いつつも、自分も嬉しさに頬が緩んだ。